JSRTに学ぶ専門家主導の動画制作法

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企業・団体が動画を制作する場合、通常、映像プロダクション等に依頼する。動画のテーマが一般的で、専門知識がそれほど必要でない場合、映像プロダクションが中心になってもいいかもしれない。しかし専門的な内容を、新人や分野の異なる専門家に伝える場合、映像プロダクションに依存するのは危険だ。映像フロダクションには何がポイントかわからないし、表現が不正確だったり、不適切であっても気づかないからだ。
確かに監修者として専門家が名前を連ねることがあるが、監修者が動画制作の初期段階から加わることはまれで、仕上がり直前に不備を見つけても、予算やスケジュールの関係上、撮り直しはできない。監修者は箔付けとしての意味しかない場合が多い。

専門的な内容の動画を制作する場合、専門家が主導すべきである。とはいえ、動画のプロではない、多忙な専門家がどうやって動画を作ればいいのか。
e-ラーニング動画を専門家の立場で制作し、高い評価を得た公益社団法人日本放射線技術学会(JSRT)の取り組みは、この問いに重要な示唆を与える。2010年から同学会の動画制作をサポートしてきたデジタルエイドの体験をもとに、同学会の成功の秘訣を分析する。

制作目的の共有化

放射線撮影では、撮影部位ごとに、患者のポジショニング、X線入射方向と角度、撮影方法が異なる。放射線技師を目指す者は専門機関で、講義や教科書の写真や解説文でこうしたことを学んできた。しかし国家試験を合格し、診療放射線技師の資格を持つといえども、新人が一人前になるには、現場での十分な教育訓練が不可欠だという。講義や教科書ではなかなか得にくい実務に根差したトレーニング教材が必要というのは、同学会の共通認識であった。

同学会で、実際に動画制作を担当したのは、近畿支部(当時近畿部会)の編集委員会である。メンバーは総勢10名前後。全員現役の放射線技師で、日中は各病院でテクニシャンとして業務に当たり、宿直のない夜間と週末だけ、部会雑誌の編集をこなしながら動画制作を行った。
編集委員会は多忙を極めたが、映像プロダクションに丸投げするのではなく、企画からシナリオ制作まですべて自分たちで行い、撮影・編集、ナレーションのみ、プロを起用した。

企画: 撮るべき項目を整理し、シナリオを書く

企画では、まず、動画制作の目的と動画を見せるターゲットを確認し、それから何を撮るべきか候補を挙げていった。
候補を整理して実際に撮影すべき項目を決定すると、編集委員会は小さな制作グループに分かれ、担当する項目を分担し、どのように撮るべきか具体的に検討した。
撮り方は予め標準化されていた。ちなわち、1動画1テーマ。動画の長さは1分弱から2分程度。撮影場所は病院。患者と技師が相対して、ポジショニングを行い、撮影するまでのプロセスを撮影し、ナレーションによる解説をつけ、最後に撮影されるべきX線画像を見せる。
このパターンにそって、各グループは担当項目に関して、シナリオを作っていった。

写真コンテ同学会の動画制作でとくに秀逸なのは、シナリオである。
編集委員会のメンバーはシナリオを、絵コンテならぬ写真コンテの形式に完成させた。
すなわち、各カットを言葉で説明するとともに、写真を付け、演技者はどういうポーズ/動作をすべきか視覚的に明示したため、シーンの流れが一目でわかるようになっていた。写真コンテはWord形式で作られていたおかげで、編集委員ばかりでなく、映像プロダクションでも共有された。
写真コンテでは、各カットで何がポイントとなるのか明らかなため、撮影クルーも予め、撮るべきカットをイメージして撮影に臨むことができた。
また、動画編集者もこの写真コンテに沿って編集した。さらにナレーション原稿も写真コンテを参考に書かれた。
このように、写真コンテを中心に作業が回るため、専門家集団の制作意図が外部スタッフにもしっかり伝わり、作業もほぼ滞りなく進んだ。動画の内容的なクオリティがどの作業段階でも損なわれることなく、しかも作業が効率的に進んだのは、この写真コンテのおかげである。

撮影: 1シーンにつき、3、4テイク撮る

撮影には、映像プロダクションから撮影クルーが参加し、1日~1日半かけて撮影した。ここでも制作グループが主導した。
各項目の制作グループが放射線技師役だけでなく、患者役、看護師役、医者役もすべてこなした。彼らは日頃、放射線技師として患者や他の医療スタッフとも接しており、それぞれの行動パターンや心理を熟知しているため、迫真の演技をした。そして制作グループの一人がディレクターを務め、撮影を見守り、適宜、指示を出した。
テイク(撮影)はリハーサルも含め、1シーンにつき、3、4回は撮っていた。カメラが1台のため、違った角度からの撮影や、クローズアップなどは、別テイクで撮る必要があったからだ。それでもしっかり準備しておけば、1日20本くらいの動画撮影は可能だ。

編集: 粗編集 – ナレーション収録 – 本編集

撮影した動画をそのまま見せるだけでは冗長で、見るべきポイントがよくわからない、つまらない動画になってしまう。見る人の目線を誘導し、動画制作者の意図を確実に伝えるためには、動画編集は不可欠である。しかし、動画編集はかなり手間がかかり、専門的な技術と忍耐が必要でもある。だから、こうした作業を外部のプロに委託するのは理にかなっている。

同学会でも、動画編集は映像プロダクションに委託した。
このとき、動画編集は2段階に分けて行われた。第1段階は粗編集で、撮影された動画を写真コンテに沿ってつなげていく。この段階ではタイムコードをつけて、それぞれの項目の制作グループに見せた。
制作グループはタイムコードを基準に、動画編集の修正を指示するのである。初期には、映像プロダクションからDVDを送っていたが、そのうち、デジタルエイドが提供するテストサイトにアップロードし、インターネット越しで見てもらうようにした。こちらの方がディスクをやりとりする時間をカットでき、修正指示もすぐに反映できる。
ところで、制作グループはこの粗編集の段階でナレーション原稿も作る。できた原稿はナレーターに音声を入れてもらう。これを映像編集者へ渡して、本編集するのである。
本編集の後、制作スタッフがインターネット上でもう一度、動画をチェックする。

本編集のチェックの後、全コンテンツが出そろい、最終チェックを行う。この段階でも、動画の修正が出てくるのは珍しくない。
単なるミスの修正もあるが、もっとこうした方がよいといった改正もある。ネット越しにぎりぎりまで修正できるのは、専門家集団が制作に携わるとき、必要なシステムである。

反響: e-ラーニング教材は求められている

同会では、e-ラーニング動画をCDに収め、部会雑誌の付録として会員に配布した。
反響は予想以上に大きかった。早速、病院内の研修に利用した、養成所で取り上げたとかいった報告が寄せられた。のみならず、学会外からも問い合わせを受けた。
手ごたえを感じた編集委員会はその後3年にわたって、e-ラーニング用の動画を制作し続け、さらに、好評だったシリーズを合体させたリメーク版を制作し、市販した。

まとめ

専門的な内容の動画は、その分野の専門家が中心となって作るべきである。そのうえで、適宜、プロの撮影クルーや動画編集者を投入する。しかしあくまでも専門家が主導権を取り続けることで、内容のクォリティを維持したまま、外部スタッフの力を生かすことができる。

さて、次回からは、日本放射線技術学会のメソッドを基本に、動画制作の各段階で解説する。

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